この度 WATOWA GALLERY は、作家かせきさいだぁによる個展KASEKI POP 2023〜SUMMER TIME〜並びに、グループ展TOKYO POP by KASEKI CIDERを、elephant STUDIOにて2023年8月19日(土)から9月3日(日)まで開催いたします。
Statement
かせきさいだぁのポップアート
― 作品に耳を澄ませれば、時代の音が聞こえてくるる
かせきさいだぁは日本を代表するヒップホップアーティストであり、あるときは漫画家、文筆家、そして現代アーティストといくつもの多彩な顔を持つ。彼の描く作品は、すっきりと無駄のない構図や透明感のある素直な色調が印象的で、まるで軽快なシティポップを聴いているような心地よさがある。
代表的な名画シリーズでは、モナリザやゴッホのひまわり、モネの水連といった誰もが知る名画を、かせきさいだぁらしいミニマルで可愛らしい姿に描き直している。かせきさいだぁ流に言えば "名画のサンプリング" だ。既存の音源の一部を引用して再構築するヒップホップにおけるサンプリングと、名画を記号的に引用する表現手法には通じるものがある。そこには名画へのリスペクトや親しみ、愛着があり、そうした気持ちを他者と分け合いたいという高い共感性がある。好きなものを友達とシェアしたいという気持ちや、現実世界の煩雑さに抵抗するように軽さや明るさや可愛らしさを求める今の時代のムードは、かせきさいだぁの世界観と驚くほどマッチしている。コンセプトの壁を超えるためにインテリジェンスで武装しないと到達できないのがいわゆる現代アートの姿だとするなら、かせきさいだぁのアートは誰にとっても親しみやすく居心地がいい。誰も撥ねつけない大らかな作風は、いつまでも眺めていたくなる幸福感に繋がっている。
しかし、彼の持ち味はそうしたポップさや親しみやすさだけではない。一見、CGのように滑らかで正確無比に見える作品を間近で見ると、手描き独特の線のゆがみや色の塗り重ねの跡があり、彼が正真正銘の絵描きなのだということがよくわかる。手で描くことでしか成しえない人間的なゆらぎは、モチーフに生命力を与え、作品に時間の流れを生む。そうして堆積していった膨大な情報量はある種の難しさでもあるのだが、「人間は情報量の多さこそを面白さと捉える」ということをかせきさいだぁは熟知している。
ミュージシャンとして活動するより以前、彼はゲーム会社のグラフィック担当として、ゲームのキャラクターや背景を制作していたのだという。フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》の瞳がパックマンを象った作品があるが、ゲームクリエーターのキャリアが分かるとその遊び心にも納得だ。使える色数も少ない黎明期のゲームグラフィックの世界にいたからこそ、手描きの良さや画面に込められた情報量が人間に与える影響を深く理解している。長く画面を見続けたいという欲求は、人間が対象を面白いと感じる感覚とリンクしているのだから。分かりやすさと複雑さの絶妙なバランスこそが、見る者の心をひきつけてやまないかせきさいだぁの作品の魅力になっている。
沓名美和
Artists profile
かせきさいだぁ
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1995年、1st アルバム『かせきさいだぁ』でデビュー。現在までオリジナル・アルバムを6枚リリース 。ポップ・ミュージックの歌詞を引用したラップで注目を集め、今日では日本のヒップホップ界で強い影響力のあるミュージシャンの一人として知られているミュージシャン、ラッパーとして活動する一方、イラストレーター・漫画家・文筆家・作詞家とジャンルを問わず幅広く活躍するその姿はまさにヒップホップ・ アーティスト。アクリルやマーカーを用い 、シルバーの背景、ポップな作風が徴の作品を手がけている。絵画作品では、歴史的名作をオマージュした「名画シリーズ」が近年注目を集めている。
2021年よりWATOWA GALLERYの所属作家としてARTIST活動を精力的に開始し、同年9月には初めての大規模な個展「かせき POP!」を開催し話題になる。
ⓒガジェット通信
望月ミネタロウ
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神奈川県横浜生まれ。'84年講談社ちばてつや賞優秀新人賞を受賞し、'85年「ヤングマガジン」で『バタアシ金魚』で連載デビュー。主な作品に『バイクメ~ン』『お茶の間』『座敷女』『鮫肌男と桃尻女』『ドラゴンヘッド』『万祝』『東京怪童』『ちいさこべえ』『犬ヶ島』『没有漫画、没有人生』などがある。
『ドラゴンヘッド』で第21回(1997年)講談社漫画賞、第4回(2000年)手塚治虫文化賞マンガ優秀賞受賞。『ちいさこべえ』で第17回(2013年) 文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞、France BD Critics Association (ACBD) "2016 Best Asia BD" award、アングレーム国際漫画祭シリーズ賞受賞(2017年)。
白根ゆたんぽ
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1968年埼玉生まれ。東京在住。イラストレーターとして広告やWebコンテンツ、企業コラボなど多くの仕事に携わる。最近ではDAISO50周年記念47都道府県トートバッグへのイラスト提供、東急歌舞伎町タワー LIFE STYLE HOTEL EVAへの作品提供など。クライアントワークの他、年に数回の個展、企画展や海外でのアートフェア、グループ展への参加も行う。
instagram: @yuroom